食べれません



テレビでまだ時々私の失踪事件が流れていたころのこと。

今日も今日とて私は朝から大きな壁に立ち向かっていた。
透明なきれいなガラスの器の中にに少量のドレッシングとそいつはいる。
食べる気がないのでフォークでつついては転がしている。
実際にそいつを食べるとなったとき、フォーク何ぞで突き刺したら大惨事だ。
辺り一帯が一瞬で赤く染まってしまう。
「いい加減食えよ、片付かねえだろ」
新聞は読み終わったのか、広がりきったそれを丁寧にたたみながら俊が言う。
「ムーリー」
「ぱぱっと口に突っ込め、じゃなければ押し込むぞ」
さらり、とひどいことを言って新聞を床におく。
いまだに決心のつかない私はころころと皿の中でそいつを転がし続けていた。
とっくに食事を終えた俊はトーストの皿と、自分のコップをキッチンに下げに行った。
はぁ、とため息をついて皿の中を見つめる。
毎日毎日こいつによって私は朝ごはんにとてつもない時間をかけるのだ。
皿に残っていたドレッシングがついてところどころ白く見える赤いそいつ。
「別にミニトマトぐらい一口で食えるじゃんかよ」
「二個入ってるから二口だし」
はいはいそうですか、とくすくす笑いながら、机に残っていた俊のサラダの皿と私のコップをさげに私の横まで来る。
んー、とうなり続ける私の横から手が伸びてきて、さらに残っていたミニトマトのひとつをつまみ上げる。
「ミニトマトうまいのに」
そう一言いうと、ひょいと口にミニトマトを放り込んで私のコップと俊のサラダの皿を持ってキッチンまでスタスタといってしまった。
キッチンで洗い物を始めた俊を見て、私も意を決してミニトマトを放り込む。
トマトが口に入ったという事実だけで寒気がして鳥肌が立つ。
口に入れてしまったが最後、チョコみたいに溶けてなくなるものではないので、半泣きになりながらもある程度噛んで勢いよく飲み込んだ。
口の中がトマトの味に染まっている。
口を閉じればトマトの味が充満するので、口をあけたまま、散々トマトを転がしまくったサラダの皿を俊のところまで持っていく。
たかがトマトで、という顔で俊が笑いながら私から皿を受け取る。
俊に皿を渡した私はそのまま冷蔵庫に直行。
冷蔵庫を開けて目の前にあるチョコレートの箱に手をのばし、一つ取ると丁寧に包み紙をはがし口の中に放り込む。
俊いわく、トマト食った後にチョコなんて考えられないらしいが、私からしてみれば、このトマトの味を何とかしてくれるなら何でもいいのだ。
「りーは本当にトマトだめだよな」
なんか悪い思い出でもあるのかよ、トマトに、皿を洗いながらそう俊が聞いてくる。
「そうじゃないけど、なんかだめ。無理」
口の中のチョコが溶けてなくなって、やっとトマトの味から解放された。
「俊こそ、何で朝のサラダに必ずトマト入れるのさ」
トマトもいなくなり、ようやく気が楽になった私は俊に尋ねる。
「朝にトマトは絶対だろ」
皿についた泡をを一枚一枚丁寧に水で落としながらそう答えた俊に、ふと、高木の顔が浮かぶ。
「あー、高木もよく言ってた、それ」
家でも毎朝トマトと格闘していた日々を思い出し、思わずなくなったはずのトマトの味を思い出してしまった。
「まさか、家出てきた理由、それとか言わねえよな」
冗談交じりに笑いながら言う俊に否定せずにいると、否定ぐらいしろよ、と楽しそうに笑いながら言われた。
「でもミニトマトとプチトマトってあるだろ? あれ、正式名称はどっちなんだろうな」
「もう、トマトの話はやめ!」















   あとがき

 シリアスと明るさを3:7にするためのどーでもいいお話。
 りーのトマト嫌いさを伝えるためだけのお話。
 この長編は結構思いつきでお話を作るんでwww
 ラストの話はもう出来上がってるのにそれまでに書かなきゃいけない話が多すぎる><
 つか、夢現の子達とも絡ませなきゃいけないからいっそがしい忙しい!
 頭は常にフル回転なのに打つのが遅いからぜんぜん進まないよーorz



                          coffee 2011.9.2