02.現実
俺はぐいーっと猫のように腕を前に伸ばした。
「いつまで寝てるんだよ」
蓮はそういいながら、変にはねた俺の髪を撫で付けた。
文句を言いながらも俺を起こさなかったのは蓮なりのやさしさだろうか。
何度も頭を撫でられているのを少し不満に思いながらも窓の外に目を向けた。
外にはきれいな桜が風に乗ってふわふわと舞っていた。
その桜の木の下をまだ夢と言う甘いチョコレートを手に握り締めたままの子たちが走っていた。
まだ長めのスカートが桜と一緒にゆれていた。
「あ、やっぱり純と一緒にいた。蓮、先生呼んでたよ」
がらっと古い教室独特の音を立てて、俺のクラスメートである鶴岡 琉菜が入ってきた。
小さなため息とともに蓮は席を立った。
今まで頭にあった重さがなくなって、頭が軽く感じた。
開けっ放しの教室の窓から風が入り琉菜の長すぎず、短すぎない、肩を覆うぐらいの茶髪がふわふわと揺れた。
あの桜の木の下にいた子達なら少しは揺れただろうスカートも、カーディガンから少ししか見えないようなスカートじゃ、なびく気配などない。
ゆれる髪を押さえつけながら、琉菜のつり目が俺を捕らえた。
「じゃ、ちょっといってくるわ」
今までよりもっと高いところから声が聞こえて、顔を上げて視線を琉菜から蓮に戻した。
おう、と小さい声で返して、目で蓮が教室から出て行くのを見届けた。
灰色のズボンの両方のポケットに手を突っ込んだ蓮が少しずつ遠くなる。
ベージュのベストにゆるく結ばれた学年色の深緑のネクタイはとても蓮に似合っていた。
過度の装飾はしていないのに、それなりにかっこよく見えた。
蓮は職員室に向かうため、教室の後ろのドアを出て右に曲がった。
「本当、仲いいよね。嫉妬しちゃう」
気づけば今まで蓮が座っていた場所に琉菜が座っていた。
足は教室のドアのほうを向け、上半身は俺のほうを向いていた。
琉菜の言葉には何の反応もせずに、さっきまでと同じように机に突っ伏したまま顔だけ外に向けて桜を見ていた。
少しの沈黙のあと、口を開いたのは琉菜だった。
「聞かないの? 何で別れたか」
「合わなかった、からだろ」
「あんなにベストカップルだって騒がれたのにね」
「周りから見ればそうでも本人同士は違ったんだ。本人同士が合わないんだからしかたない」
「なんか純らしいね」
少し話してまた沈黙。同じ沈黙でも蓮のときとはぜんぜん違う。
今すぐ逃げ出したいような感覚に包まれる。
「あたしたちだって、最初は最高の相手だって思ってた」
こういう沈黙を破るのは必ず琉菜だった。
「でも小さなずれが重なって、気づけば遠く離れてたんだよね」
話すというより独り言のような小さな音は、春風と桜のかすかな香りに吸い込まれた。
すべての音が吸い込まれるとまた沈黙が訪れた。
蓮のに比べればとても短い間だけれども、瑠奈とだととても長く感じる。
「あー! やっぱだめだ!! あたしには蓮のようにはなれないね」
いきなり琉菜が大声をあげて両手両足を思いっきり伸ばした。
「黙ってても居心地よくできるのは蓮だけだよ。騒いでいても居心地よくできるのがお前だけなのと同じで」
俺は窓の外の桜に目をやったまま、声はしっかりと届くようにいった。
返事が返ってこないので琉菜のほうへ目をやると、ぱちぱちっと2、3回瞬きをして固まっていた。
さっき蓮のようにはなれないといったばかりなのにまた沈黙が訪れる。
もう自分からしゃべってしまおうか、そう思っているとやっと琉菜が口を開いた。
「相変わらずいきなり爆弾落としてくるよね。今のはどきっとした。本当、無気力、無機質のくせに」
はははっと笑いながら琉菜は席をたつ。
無機質は違うだろ、と頭の隅で思いつつ、また視線を桜に戻した。
「これからも仲良くね」
教室のドアに向かいながら琉菜がいった。
そして、必然的俺は教室にぽつんとひとり、取り残された。
中学生女子でもあるまいし、この年になって誰かのそばにいないといやだなんてことはない。
あいかわらず風にのって舞い続ける桜をぼーっと見つめることにした。
蓮と琉菜は最近まで付き合っていた。
そして、俺と、瑠奈と、蓮は小学校からのツレだった。
瑠奈は声楽、蓮はバイオリンで2人とも高校は音楽科を目指していた。
しかし、地元に音楽科は1校だけで、とてもいい高校とはいえなかった。
それでもいい、かまわない、と2人は言っていた。
でも中学3年のはじめ、勉強も運動もよく素行も悪くない、いや悪くなかった蓮と琉菜は周りの大人から普通科を押し付けられた。
琉菜も蓮も中学3年の夏まで粘ったが両親の反対もあり、普通科に進路変更した。
そのときはじめて、蓮が必死になっているのを見た。
そのときはじめて、いつも明るい琉菜の涙を見た。
そのときはじめて、夢が否定される怖さをしった。
そのときから俺らは決してうまくいってくれない現実を受け入れるようになった。
誰もが、蓮も琉菜も音楽科に行くものだと思っていた。
大人もそれを受け入れてくれるものだと夢見ていた。
一番の味方と信じていたやつらは、実は一番の敵だったのだ。
蓮の両親は海外でバリバリ活躍していて、ほとんど家には戻らず、蓮は祖母の家で暮らしていた。
そして、昨年、その祖母も亡くなりそれ以来蓮はずっと一人で暮らしている。
瑠奈の両親は両方が医師で、瑠奈にも最終的には自分と同じ道を歩んでほしいと中学のころからずっと言っていた。
琉菜も蓮も音楽科を否定されてからは、大人たちに反抗するかのように成績も下がり素行も徐々に悪くなっていた。
最終的に俺ら3人は同じ高校に進学した。
俺はたまに思う。
もし、あのまま琉菜も蓮も音楽科を目指していたら昔のように優等生だっただろうか。
もし、あの音楽科の学校がもう少しマシな高校だったら、大人たちは彼らの夢をつぶさずに済んだのだろうか。
もし、彼らがあのまま夢を突き通したとして、それは彼らにとって満足いくものになったのだろうか。
もし、もし、俺もつられて夢を突き通そうとしたら、それは叶うものだったのだろうか。
「待たせたな、帰ろうぜ」
ふいに蓮の声がして誰もいなかった教室に目を戻すと、後ろのドアにもたれるようにして蓮が立っていた。
俺はがた、と自分の席を立ちのそのそと蓮の元へ向かった。
それなりに身長があるはずの俺も、蓮と並ぶと5�pほど小さい。
その辺に売っていそうなスクールバックを肩にかけ、両方の手をポケットに押し込む。
ぺたぺたと廊下を歩いていると少し後ろにいた蓮が口を開いた。
「きかねえの? なんで別れたか」
さっきも聞いたな、それ。と心の中で思いながら、傾く太陽に染められた桜をみていた。
俺がぼーっとしていると、なぁ、と蓮にしては珍しく俺の返事を催促してきた。
少し振り返って蓮の顔を見ると、いつもはしないような、どこかつらそうな顔をしていた。
「さっき、琉菜から聞いた。それに、別にそんな興味ねえよ」
あえて蓮の顔を見ずにそう答えた。
興味ない、といったのはうそに近いが、本人たちから無理に聞き出すほど気にしていたわけではないのはたしかだ。
それに、蓮があんな顔をしているのに聞く出すなんてことはできない。
そっか、小さく蓮はつぶやいた。
少し後ろにいた蓮はいつの間にか俺の隣にいた。
そういえば、蓮は一緒に歩くときはいつも後ろか隣だなーと思いながら3階から階段を降りる。
踊り場にある窓から夕日が差し込んでいつもの階段が赤く染まっていた。
俺らは赤い海を横切り階段を下がっていった。
だんだんと野球部の声が大きくなっていく、踊り場の窓から野球部がノックをしているのが見える。
ここからでもわかるぐらいに汗だくになって必死にボールを追っていた。
「なに、野球部?」
しばらく踊り場でとまっていた俺に蓮が話しかける。
「大変だなーって」
とめていた足を動かしながらそう答えた。
「俺らとは無縁だな」
はは、と蓮がカラカラ笑いながらそういった。
確かに、俺はそう笑いながら残り少しの階段を下りる。
「純なら2球ぐらいであきらめそう」
「な、俺だって5球ぐらいまでならがんばるし!」
「2球も5球も変わらねえだろ」
さっきよりも本格的に笑い出した蓮に少しむっとする。
それを感じたのか、ごめんごめんと笑いながら蓮が謝ってくる。
笑いながら謝られても、そう思いながら下駄箱から自分の靴を取り出す。
シンプルなハイカットの黄色いスニーカーに足を突っ込む。
長いズボンなのでハイカットである必要はないに等しいが、買ったばかりで変えるつもりはない。
もともと、この黄色はハイカットしかなかったのだ。仕方ない。
「行くぜ?」
そう蓮の声がして、おう、と答えて急いで下駄箱を閉める。
ガチャン、と音がして、俺は小走りで蓮のところまで行く。
門をでて右に曲がる、小さく吹奏楽部の練習の音がした。
「腹減った」
ぼそ、とつぶやいた声は吹奏楽部の音に消されてしまいそうなほどだったが、こういうのを拾い上げるのは蓮の得意技だ。
「寝てただけじゃねえか」
そういうと蓮はまたくすくす笑い出した。
「寝てても減るもんは減る!」
「じゃあなにか食いに行く?」
「ドーナツ」
「即答かよ」
今日の蓮はやたらとつぼに入るらしく、さっきから笑ってばかりだった。
「相変わらず乙女だなー」
「うるせぇ」
自分でも好みが女々しいのは重々承知だ。
でも好きなものは好きなのだから仕方ない。
すこし、むすっとしながら歩いていると、ようやく笑いのおさまったらしい蓮が口を開いた。
「そういや、お前のクラス転校生はいるらしいぜ。来週か再来週あたりに」
きっと職員室で聞いたんだろう、初耳な情報に少しだけ興味がわいた。
「また微妙なときにくるもんだなー、普通新学期に合わせるだろ」
「なんか、春休み中に父親の転勤が決まったらしく、急すぎて新学期に間に合わなかったんだと」
へー、と返しながら、近づくいつものドーナツ店に心を躍らした。
「そうだ、今日蓮、俺んちでメシ食ってかねえ?」
ドーナツで思い出したのは妹の顔。
今日は母親が夜は外食なので、最近料理にはまりだした妹が腕を振るうのだ。
加減を知らないあいつは作りたいだけ作るので、俺ら2人で消費するのはかなり困難だった。
3人いても食べきるとは思えないがいないよりはマシだ。
そう思って俺は蓮を誘うことにした。
「おーいくいく」
すんなりOKを出した蓮と歩きながら、もう見えてきたドーナツ店に向かう。
俺の家で蓮が食べていくときは必ずこの店でドーナツを買っていた。
入店と同時に、いらっしゃいませーという店員さんの声なんてそっちのけでドーナツを選んだ。
蓮は妹の沙華に買っていくドーナツを選んでいた。
たぶん食えないぜー、なんて思いながら数あるドーナツの中から3つ程選んでスマイルをばら撒く店員に頼んだ。
「あ、このチョコのとこっちのイチゴのも追加で」
横から蓮が頼んできて、ありがとうございまーす、なんていって店員のスマイル度が上がった。
結局蓮が全部払ってくれて、俺らは店を後にする。
入り口近くまで来ると、一番奥の窓側の席で1人女の子がたくさんのドーナツを食べながら座っているのが見えた。
こんなとこに1人でなんて珍しいな、と思っていると妹からのメールが入り店を出た。
先に店から出ていた蓮が、俺がさっき見た女の子をみて
「お前みたいだな」
なんていいやがって、さすがの俺も頭にきたので一発殴っておきつつ、俺自身も確かに似ているな、と思っていた。
もちろん、ドーナツ好き、とは違うところを。
あとがき
この話は1話で主人公の純がおきた直後です。
まだ1話を読んでいない場合はそちらから読んでいただけるとうれしいです^^
前回は夢だったので今回は夢から覚めて現実です。
とりあえず蓮くんをイケメンにするのに必死ww
いろいろキャラも出てきたのでキャラ紹介をしましょうか!
菊池 純 きくち じゅん
高校2年生(16)
誕生日10月27日
血液型AB型
身長178�p
イケメンなほうだけど、蓮くんがいるからそうキャーキャー騒がれない。
本人は「面倒ごとは蓮が引き受けてくれてラッキー」なんて思っている。
しかし隠れファンが多く、人気は高い。
かなりの甘党で好きなものはドーナツ。
運動勉強ともにそこそこ。
蓮くんいわく「やる気を出せばできる子」
琉菜いわく「愛すべきバカ」
駒井 蓮 こまい れん
高校2年生(16)
誕生日5月30日
血液型B型
身長184�p
かなりイケメン。
朝から晩までキャーキャー言われます。
でも本人は興味ない様子。
甘党ではなかったが純の影響でよく食べるようになった。
運動勉強ともに優秀。
純いわく「神」
琉菜いわく「神」
鶴岡 琉菜 つるおか るな
高校2年生(16)
誕生日3月8日
血液型O型
身長160�p
3人のうち唯一茶髪で、シンプルな蓮くん、興味ないから何もしない純とは違いゴテゴテ。
校内で一番スカートの短い子といわれ、ひざ上15�p以上。太ももの3分の1は常に露出。
黒のニーハイをはいていて、その下に加圧靴下常備。
スタイル抜群でかなりモテる。ただし性格が曲者。
辛党で、純と食べ物の相性は最悪。
勉強そこそこ運動優秀。
純いわく「味覚障害」
蓮いわく「努力をしない努力家」
菊池 沙華 きくち さか
中学2年生(14)
誕生日4月4日
血液型B型
身長156�p
小柄な体格で、成長期はまだくると本人は信じている。
かわいらしい顔つきで、現時点で彼氏持ち。
彼氏がいることを知っているのは相談相手だった兄の純だけだと思っているが、実際は純が蓮に話している。
最近料理にはまりだし、純が犠牲になっている。
母親も料理好きなので、母親が外食のときだけキッチンに立つ。
運動勉強ともにそこそこ。これはもう遺伝だと本人はあきらめている。
純と一緒でかなりの甘党。好きなものはドーナツ。
とりあえず今回出したのはこの4人。
蓮くんは前回から出ているけどね^^
実物は今回初登場と言うことで><
私的には蓮くんが一番お気に入りv
蓮君は読んでてかっこいいなーって思える子にしたいね!
純は読んでてかわいいなーって思える子にしたいね!
純かわいい!蓮くんがかわいがるのもわかるよ!!って言ってもらえたらガッツポーズ。
蓮くんずるい!私も純くんかわいがりたい!!って言ってもらえたらわが人生に悔いなし!
その前に、3話以降の道筋が見えない……orz
ここまで読んでくださったあなた様に感謝です☆
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