「さっすが!今日のロールケーキもおいしいね!!」
 学校帰り、友人は私がさっきあげたロールケーキにかぶりついた。
 小学校からの付き合いの私たちは家も近く、高校に入っても小学校のころと変わらず一緒に登下校している。
 あの子の隣は私の居場所で私の隣もあの子の居場所。
 そんな関係が普通に成り立っていた。
 「まったく、いきなりメールしてきてチョコのロールケーキが食べたいなんて、私も面倒な友達をもったね」
 口元にクリームついてる、と私は指で自分の口元をつついて間抜けな顔をしたあの子に教えてやる。
 まあいつものことだけどね、心の中でそう思い、その言葉は心の中でふわりと消えた。
 「だって、無性に食べたくなったんだもん!!」
 と、あの子は私が苦労して作ったお手製のチョコロールケーキをたった二口で平らげる。
 そして、もう一個!、と手を差し出してきた。
 私もため息をつきながら、もうひとつをあの子に差し出した。
 もっと感謝して食べなさいよ、と心の中では思いながら、おいしそうにほおばるあの子を見てため息をついた。
 まだ2月の中旬。吐いたため息は白く染まり、日が沈み、薄暗くなった冬の空にふっと消えた。
 私たちは必要以上にしゃべらない。きっとあの子も気づいているだろうし、気づかなかったとしてもなにも変わらない。
 すべてを話さないと伝わらないほど関係は浅くないし、あの子なりに忙しいと思われる時間は避けてのメールだったのだろう
。  それに、ただ食べたいだけならコンビニでもいいのに、わざわざ私に頼むのが、コンビニのよりもおいしい、といわれているようでうれしさも感じた。
 「ねえね、ほかになんか持ってないの?」
 不意に片手にロールケーキを持って、口をもごもご動かしながらあの子はきいた。
 「なんか、ってなに?」
 「なにって、今日はバレンタインだよ?誰かに渡さなかったの?」
 興味と面白さで顔をにやけさせながらあの子はロールケーキをほうばった。
 「友チョコならもう売り切れだよ、それにあんたにはもう渡したじゃない。そのロールケーキとはべつに!」
 きっとあの子がほしい答えは違うだろうけど、わざとその答えには触れてやらない。
 私は的外れな答えに少しだけいやみも足して返してやった。
 「そうじゃないよ。本命とかさー。うちの学校のイケメンは甘い物好きおおいし!バレンタインとか盛り上がるじゃん」
 隣のクラスのサッカー部のことかさ、あとバスケ部のこも好きだよねー。
 と聞いてもいないことをしゃべり出す。
 この子の甘い物好き同盟はいったいどこまで広がっているのだろうか、そう思いながらふと、かばんの中のひとつだけ残ったチョコレートに目をやる。
 ひとつだけ何か特別なラッピングをしたわけでもない。
 友チョコとしてなら何人かの男子にも同じものをあげた。
 でもたった一つだけ残ったチョコレート。
 「で?あげないの、誰か」
 考え事をしていた私の顔を覗き込むようにしてあの子が聞いてきた。
 にっこりと笑った笑顔は昔と変わらない。
   「だから、もうないんだってば。あんたこそ誰かにあげないの?」
 ちょっとだけうそをついた。彼女は少しだけ驚いたようだったが、すぐに笑みを深めた。
 かばんの中に残っているチョコレートには心の中で謝った。
 「んー。特にいないかなー。それにあたし料理へただし」
 かなわないもん。と私に笑いかけた。
 「そっか」
 なぜか私は安心感に似た何かを感じた。
 まだ少しだけこの子の隣にいられる。
 そう思ったら自然にほほが緩んだ。
 でもそれと同時に、いつかは来てしまうだろう別れの日を覚えて、悲しみとも寂しさとも取れる、なにかもやもやした黒い煙のようなものに取り付かれた気がした。
 「でももったいないなー」
 彼女の声にはっとし、もやもやした煙は私から離れていった。
 何が、そう音を発する前にあの子はいった。
 「このロールケーキだってあたししか味わえないじゃん。あ、あたしが彼氏作って彼氏にも食べさせれば、このおいしさを共有できるか!」
 開いた口がふさがらないとはこういうことなのだろうか。
 呆れてものが言えないというほど呆れているわけではない、むしろ、私の思考をすべて読んでいたかのような発言でおどろいていた。
 でもしばらくするとなぜかお腹のそこからふつふつと笑いが来て、私は声を抑えて笑っていた。
 笑いをこらえていると、自然にかばんの中のチョコレートに目がいった。
 チョコレートは本来いくべきところにいけなくて残念そうだったが、今年もおとなしく私のお腹に収まってもらうことにした。
 家に着く前にあの子に見つかったら、あの子のお腹にいくことになるけどね、とチョコレートに謝罪を含めて話しかけた。
 「なになに?」
 なにかおかしいこといった?と言わんばかりの表情で、あの子はかばんを見つめる私に聞いてきた。
 あの発言からして、どうやらこの子は私から離れるきがないらしい。
 それでも私と、あの子の彼氏と、あの子が私の家の台所にいるカオス空間を想像すると、さっきとは共通点などかけらもないもやもやを感じた。
 いつかは来てしまう別れを惜しんだことが、なんだかばかばかしく感じて、そんなことを考えていたことを悟られたくなくて、私は
 「あんたに彼氏ができたら、彼氏にあんたのお世話は頼みます。せいぜい料理の得意な彼氏作れ!」
 と冗談半分、本音半分に、あの子に言い放ってやった。

 あーあ、そんな声がチョコレートからしたのは気のせいだろうか












―物書きの集いお題小説「チョコレート」―







blogにあったものをこっちに持ってきました!
にしても、改めて自分が書いたのを読み返すってなかなか勇気が要りますねww



2011.3.10     修正